IoT 体温計(山下裕己)

IoT 体温計

機械工学科 3 年
山下裕己

1 動機

そもそも IoT とはなんでしょう? IoT は、Internet of Things の略称です。これは物がインターネットにつながり、相互に情報交換を行うことを意味します。以下ではインターネット につながる小さなデバイスを「もの」と表現することにします。物がインターネットにつなが り「もの」になることにより一体どのような利点があるでしょうか?考えた末に私は以下の 3 点が主にあげられるのではないかと考えられました。

1. 遠隔地からの制御
2. 外部計算資源の利用
3. 情報の共有

1.1 遠隔地からの制御

まず、遠隔地からの制御です。これは、例えばスマート家電に利用されていると考えられま す。スマート家電に対応したエアコンの場合、インターネットを使うことによって帰宅前に家 のエアコンの電源を入れ温めることができるでしょう。

1.2 外部計算資源の利用

次に、外部計算資源の利用です。これは、「もの」だけでは計算しきれないような計算が困 難な問題を、外部のサーバーに必要な情報を送信することで計算を委託することです。これに より、小さな「もの」でも高度な結果を得ることができます。例えば、スマートフォンの音声 アシスタントなどがあげられます。音声アシスタントは、話しかけられた音声を録音しイン ターネットを介して外部のサーバーに送ります。サーバーが音声を認識して文字のデータに 起こし結果を再びスマートフォンに返します。

1.3 情報の共有

最後に、情報の共有です。ちいさな「もの」は様々な場所に設置し、多くの情報を集めるこ とができます。例えば、傘がどこで開いたか、車はどのような走行をしているか、いま天井の 高さはどのくらいなのか、ある人の体温は何度なのか · · · 。 ほぼ無限と言える種類の情報があります。これらは、1 つ 2 つ程度では役に立つものではありません。傘が 1 つ開こうとある点で雨が降っているのかもしれないということくらいしかわかりません。
しかし、これらの情報を大量に集めたらどうなるでしょう?何百万という「もの」から何百 万という量のデータを集めるのです。例えば開いてる傘の場所を何百万と集め地図上に表せ ば、どこで雨が降っているかが一目瞭然でしょう。さらに、周りでは雨が降っているのに一部 の領域に入ると皆傘を閉じていることがわかるかもしれません。きっとそこは屋根がある濡 れないルートなのでしょう。
車の走行データからは何がわかるでしょう?急ブレーキが多い箇所がわかるかもしれませ ん。きっとその近くでは学校などがあり飛び出しが多いのでしょう。渋滞の発生も一目瞭然 です。道路上でたくさんの車が止まっているのがわかるのですから。
このように、大量の情報を集め、分析し、その結果をみんなで共有する。IoT の強みは、この情報の共有にこそあるのではないかと私は考えました。

2 仕組み

そこで、私は身近な物を 1 つあげて情報の共有を行うことにより、そのデータから何が分析できるのか、ということを考えてみることにしました。私が取り上げたのは体温計です。体温 計からは、人の体温、時間、場所のデータを集めることができるでしょう。人の体温データを 大量に集めることによって何かできないでしょうか?

2.1 デバイスの仕組み

今回作った「もの」は 1 辺約 13mm の正方形の形をしています。このデバイスは絆創膏などで体に貼ることができ、常時体温を観測し Bluetooth によってスマートフォンのアプリに送信します。アプリは、体温情報に位置情報と時刻情報を追加し、サーバーに送信します。 サーバーは、次の項で示すようにデータを分析し結果をアプリに返します。今回の試作では、 デバイスとデバイスのデータを受け取る PC アプリケーションを作りました。

図 1    デバイスの仕組み
図 1 デバイスの仕組み
図 2    デバイスの基板
図 2 デバイスの基板

 

2.2 システムの利用法

体温計から取った 3 種類のデータを地図上に表現するとどうなるでしょうか?
ここで、似たようなものを思いつきます。雨雲レーダーです。雨雲レーダーは、降雨量、 場所、時間のデータを以下のように表現することにより、数時間先の雨の降りかたを予想し ます。
体温計のデータでも同様の図から、風邪の流行予測ができるのではないでしょうか?これ は、画期的です。多くのデータを集めることによって、明日に渋谷に行くとどのくらい風邪を もらいやすいのかということがわかるかもしれないのです。天気予報を見て土日に遠足に行 くか、水族館に行くか、予定を調整するように、風邪予報をみて風邪を避けたスポットに行く こともできるかもしれません。また、風邪の流行を見て効果的にワクチンを打つことにより、 風邪の大規模な流行を抑え込むことができるかもしれません。

図 3 アメダスと風邪予報
図 3 アメダスと風邪予報

3 工夫した点、苦労した点

3.1 デバイスの小型化

工夫した点の 1 つにデバイスの小型化があげられます。この体温計は常時体温を測るため、いつでも身につけられるようにしなければなりません。そのためには、デバイスはできるだけ小型である必要があります。そのため、できるだけ小さい Bluetooth モジュールを使用し、さらに基板を自分で設計することによって無駄なものを省き、小さい部品を使うことで極限ま で小型化しました。

3.2 部品の実装

苦労した点は部品の実装です。極限まで小型化したため、通常の方法では部品をハンダ付け することができません。今回はリフローという方法を使いました。その方法は、まず基板の金 属部分にペースト状のハンダを塗ります。その上にピンセットで部品を置き、専用のオーブン で全体を焼きます。これにより、小さな部品でも比較的簡単に実装することができました。

3.3 Bluetooth 通 信

苦労した点の 2 つ目は Bluetooth 通信です。仕様が難しく、Bluetooth 自体を理解するのに 1 週間ほど資料を読む必要がありました。さらに、モジュールと受信側のプログラミングを行うのに数週間かかりました。

4 終わりに

初めてこれほど複雑なモジュールを使用したので、失敗の連続でした。しかし、初めて 0 の状態から、自分で仕様書を読み、回路を引き、パターンを書いて基板を作成し、部品を実装 し、また仕様書を読みながらプログラミングに励み、1 つのデバイスを完成させるという貴重な体験をすることができました。この成功体験は (私は成功だと思っています) 必ず次のデバイスを作る糧となると思います。
最後に、難航したアイデア出しにアドバイスをくださったり、Bluetooth モジュール選び、基板製作をサポートしてくださった、IoT メディアラボの先生方にはとても感謝をしています。ありがとうございました。